PR 本ページはプロモーションが含まれています(記事内から講座の紹介ページへ移動できます)。
宅建と賃貸不動産経営管理士(賃管士)の併願を説明する記事では、よく「範囲の◯割が重複する」という数字が出てきます。しかし、両試験の実施機関がそのような重複率を公表している事実は確認できませんでした。数字の出どころが分からないまま「4割重なるから楽」と受け取ると、重ならない6割で足をすくわれます。
この記事では割合を使わず、公表されている出題範囲どうしを突き合わせて、どこが重なりどこが重ならないかを条文単位で並べます。判断材料としてはこちらのほうが役に立つはずです。
1. まず、両方の「公式の範囲」を並べる
宅建の試験内容は宅地建物取引業法施行規則第8条に定められた7項目、賃管士の出題範囲は令和8年度実施要領に示されたイ〜ヘの6項目です。まず原文どおりに並べます。
| 宅建(宅建業法施行規則8条) | 賃管士(令和8年度 実施要領) |
|---|---|
| ① 土地の形質、地積、地目及び種別並びに建物の形質、構造及び種別に関すること | イ 管理受託契約に関する事項 |
| ② 土地及び建物についての権利及び権利の変動に関する法令に関すること | ロ 管理業務として行う賃貸住宅の維持保全に関する事項 |
| ③ 土地及び建物についての法令上の制限に関すること | ハ 家賃、敷金、共益費その他の金銭の管理に関する事項 |
| ④ 宅地及び建物についての税に関する法令に関すること | ニ 賃貸住宅の賃貸借に関する事項 |
| ⑤ 宅地及び建物の需給に関する法令及び実務に関すること | ホ 法に関する事項 |
| ⑥ 宅地及び建物の価格の評定に関すること | ヘ イ〜ホのほか、管理業務その他の賃貸住宅の管理の実務に関する事項 |
| ⑦ 宅地建物取引業法及び同法の関係法令に関すること | — |
この時点で分かることが2つあります。賃管士に「宅建業法」に当たる項目はありません。そして宅建に「管理受託契約」「金銭の管理」に当たる項目はありません。重なるのは、宅建の②と賃管士のニ、宅建の①と賃管士のロ——実質この2組です。
2. 重なる部分①:賃貸借(民法・借地借家法)
いちばん大きく重なるのがここです。宅建の「権利関係」で学ぶ賃貸借は、賃管士ではニ(賃貸住宅の賃貸借)としてそのまま中心科目になります。宅建で一度理解した条文が、そのまま使えます。
民法(賃貸借)
| 条文 | 見出し | 宅建での扱い |
|---|---|---|
| 604条 | 賃貸借の存続期間 | 存続期間は50年を超えられない(更新も更新時から50年まで) |
| 605条 | 不動産賃貸借の対抗力 | 登記による対抗力。605条の2の賃貸人たる地位の移転とセット |
| 606条 | 賃貸人による修繕等 | 修繕義務。607条の2(賃借人による修繕)と対で問われる |
| 608条 | 賃借人による費用の償還請求 | 必要費は直ちに、有益費は終了時。頻出 |
| 611条 | 賃借物の一部滅失等による賃料の減額等 | 使用収益できなくなった割合に応じて当然に減額される |
| 612条 | 賃借権の譲渡及び転貸の制限 | 無断譲渡・無断転貸と解除。613条の転貸の効果とセット |
| 616条の2 | 賃借物の全部滅失等による賃貸借の終了 | 全部滅失なら当然に終了 |
| 621条 | 賃借人の原状回復義務 | 通常損耗・経年変化は除く。賃管士では原状回復ガイドラインと直結 |
| 622条の2 | 敷金 | 敷金の定義と返還時期。賃管士では「ハ 金銭の管理」にもまたがる |
宅建受験者にとって重要なのは、621条(原状回復)と622条の2(敷金)です。宅建では1肢で終わる論点ですが、賃管士では実務の運用(原状回復ガイドライン、敷金の精算、負担区分)まで踏み込んで問われる領域になります。条文は同じでも、聞かれる深さが違うと思ってください。
借地借家法(借家部分)
賃管士は賃貸住宅の資格なので、借地借家法のうち借家(建物賃貸借)の部分が正面から出ます。宅建で借地と借家を両方やっている人は、そのうち借家側だけを深掘りすればよいことになります。
| 条文 | 見出し |
|---|---|
| 26条 | 建物賃貸借契約の更新等(法定更新) |
| 27条 | 解約による建物賃貸借の終了 |
| 28条 | 建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件(正当の事由) |
| 29条 | 建物賃貸借の期間 |
| 30条 | 強行規定 |
| 31条 | 建物賃貸借の対抗力(引渡し) |
| 32条 | 借賃増減請求権 |
| 33条 | 造作買取請求権 |
| 34条 | 建物賃貸借終了の場合における転借人の保護 |
| 36条 | 居住用建物の賃貸借の承継 |
| 38条 | 定期建物賃貸借 |
| 39条 | 取壊し予定の建物の賃貸借 |
| 40条 | 一時使用目的の建物の賃貸借 |
逆に、借地借家法の借地の部分(3条〜25条:借地権の存続期間、定期借地権、事業用定期借地権など)は賃管士では中心になりません。宅建で苦労した借地の数字は、賃管士では出番が減ります。ここが「範囲が重なる」の実態です——重なっているのは借家側であって、権利関係の全部ではありません。
3. 重なる部分②:建物・設備(維持保全)
宅建の①「建物の形質、構造及び種別」は、本試験では問50(建物)として1問出ます。木造・鉄骨造・鉄筋コンクリート造の特徴、基礎、耐震といった内容です。
賃管士のロ(維持保全)はこの延長線上にありますが、扱う量がまったく違います。賃貸住宅管理業法2条2項1号は維持保全を「住宅の居室及びその他の部分について、点検、清掃その他の維持を行い、及び必要な修繕を行うこと」と定義しており、給排水・電気・ガス・換気・消防用設備・エレベーター、そして計画修繕までが射程に入ります。
宅建の問50をきちんと得点している人は用語の下地があるぶん有利ですが、「宅建でやったから大丈夫」と言えるほどの重なりではありません。下地はあるが量は増える、が正確な表現です。
4. 重ならない部分(ここが本題)
併願の可否を決めるのは、重なる部分ではなく重ならない部分の量です。賃管士のうち、宅建の学習がほぼ効かないのは次の3分野です。
イ 管理受託契約
賃貸人から管理を委託される契約そのものの話です。賃貸住宅管理業法13条(管理受託契約の締結前の書面の交付)・14条(締結時の書面の交付)が中核で、宅建の35条書面・37条書面と「構造は似ているが中身は別物」です。宅建業法の知識をそのまま当てると間違えます。
ハ 家賃、敷金、共益費その他の金銭の管理
同法16条(分別管理)を軸に、家賃の収納、滞納督促、会計の基礎までが範囲です。宅建には対応する項目がありません。
ホ 法に関する事項(賃貸住宅管理業法)
ここが賃管士の「宅建でいう宅建業法」に当たる最大の得点源であり、完全な新規範囲です。条文の骨格は次のとおりです。
| 条 | 見出し | 内容の要点 |
|---|---|---|
| 2条 | 定義 | 賃貸住宅/賃貸住宅管理業/特定賃貸借契約(マスターリース)/特定転貸事業者(サブリース業者) |
| 3条 | 登録 | 賃貸住宅管理業を営むには国土交通大臣の登録。ただし国土交通省令で定める規模未満の事業は不要。5年ごとの更新 |
| 12条 | 業務管理者の選任 | 営業所・事務所ごとに設置義務 |
| 13条/14条 | 管理受託契約の締結前/締結時の書面の交付 | 重要事項説明と契約書面 |
| 15条 | 管理業務の再委託の禁止 | — |
| 16条 | 分別管理 | 家賃等を自己の固有財産と分けて管理 |
| 18条/19条/20条/21条 | 帳簿の備付け等/標識の掲示/委託者への定期報告/秘密を守る義務 | オーナーへの定期報告が実務上の要 |
| 28条/29条 | 誇大広告等の禁止/不当な勧誘等の禁止 | サブリース規制。登録の有無にかかわらず適用される部分がある |
| 30条/31条 | 特定賃貸借契約の締結前/締結時の書面の交付 | マスターリース側の重要事項説明・契約書面 |
この表の内容は、宅建の学習では1文字も出てきません。賃管士対策の実質は「この法律を宅建業法と同じくらい正確に覚え直す」ことだと考えてください。
5. まとめ:重なりの正しい理解
| 賃管士の分野 | 宅建の学習が効くか | コメント |
|---|---|---|
| ニ 賃貸借 | ◎ そのまま効く | 民法の賃貸借+借地借家法の借家部分。ただし原状回復・敷金は実務運用まで深掘りされる |
| ロ 維持保全 | △ 下地になる | 宅建の問50が土台。ただし設備・計画修繕まで量が増える |
| ハ 金銭の管理 | ✕ ほぼ新規 | 敷金(民法622条の2)だけが接点 |
| イ 管理受託契約 | ✕ 新規 | 35条・37条書面の「型」の感覚だけは流用できる |
| ホ 賃貸住宅管理業法 | ✕ 完全に新規 | ここが最大の山。得点源にもなる |
| ヘ 管理の実務 | ✕ 新規 | 賃貸不動産経営管理士講習の5問免除の対象になりやすい領域 |
結論として、「宅建の勉強がそのまま流用できる」のは50問のうち限られた部分です。ただし、宅建受験者には別の大きなアドバンテージがあります。法律の条文を読む訓練が終わっていることと、四肢択一50問・2時間という試験形式にすでに慣れていることです。ゼロから始める人と比べれば、新規範囲の吸収は明らかに速く進みます。
→ 賃貸不動産経営管理士 条文で確かめる要点ノート(Kindle・Kindle Unlimited対象)
この記事で参照した一次情報
賃貸不動産経営管理士協議会「令和8年度 賃貸不動産経営管理士試験実施要領」(出題範囲イ〜ヘ・出題形式)/ 不動産適正取引推進機構「試験の概要」(宅建業法施行規則8条による試験の内容7項目)/ e-Gov法令検索「民法」(604条・605条・606条・608条・611条・612条・616条の2・621条・622条の2)/ 同「借地借家法」(26条〜40条の見出し)/ 同「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」(2条・3条・12条〜21条・28条〜31条の見出しと本文)
※ 条文の見出し・番号はe-Gov法令検索で確認しています。分野ごとの「重なる/重ならない」の整理は、公表されている出題範囲を宅建GYMが突き合わせたものであり、公式の見解ではありません。法令は改正されることがあるため、学習時は必ず最新の条文を確認してください。本記事は2026年8月時点の情報に基づいています。
公開: 最終更新: